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示談

RYUが脊損センターを退院してしばらく経った5月の中旬・・・

相手側の両親が「会ってお話をしたい」と言ってきた。

親が一度、RYUが脊損センターに入院中に見舞いに来たと

RYUが言っていたが、私がA君の両親に会ったのは前の年の3月の終わり・・・


一年以上顔を合わせていない。

「何のお話ですか?」と聞くと私達が入っている社会保険の

事務所から第三者行為に切り替えていた為、

残りの入院費(保険の効かない全額)を払って欲しいという要請が来たらしく、
相手側が入っていた個人賠償の保険会社から「保険から払われますか?」と聞いてきたらしい。

私達もこの頃には、弁護士を決めてどんな風にして行くかを相談していた。

A君の両親の言い分は「私達は社会保険事務所よりもお宅に

少しでも多くお金を払いたい」というものだった。

私は即答せずに「こちらも弁護士を入れてますので後日お返事します」と電話を切った。

私は一年以上入院費の振込みの事意外 音沙汰無かった相手側を

許す気になれず RYUが落ち着いたら民事で戦うつもりだった。

すぐに弁護士に電話をしてどうするべきかを尋ねた。

弁護士は「相手が示談をしたいと言っているのなら

それなりの金額を提示してくるでしょうから、一度会って下さい。

裁判を起こすにしても示談の申し入れを無視したままではできません」と言われた。

私は法廷の場以外で相手と会うつもりは無かったのだが弁護士に言われると仕方ない・・・

数日後、近くのファミレスで会う事になり主人と出掛けた。

相手は先に来ていて 今までとは掌を返したような低姿勢・・・

席に着き「どういうお話でしょうか?」と私から口を切った。

少し前脊損センターへRYU君に会いに行って来ました。

とても元気になって良かったですね~」と母親。

RYUの事のページに書いているようにこの母親がRYUに会ったのはICUにいた時だ。

それから先のRYUの長かった地獄のような治療をこの人達は知らない。

あまりに嬉しそうに言うので腹が立ち「この間はどの程度に

なっているか、様子見にいったんですか?」と聞いた。

「いえ・・・そういう訳ではないんですけど・・」

「じゃあどういう事ですか?確かに私はお宅の言い方、考え方に

腹が立ち、今は会いたくない病院へも来ないで欲しいと言いました。

でもそう言われたからといって、本当に心配しているのであれば

断られても見舞いに行きますよね?私ならそうしますけど」

と言うと母親はヘラヘラ笑うのを止め神妙な顔になった。

「そんな事はもういいです。お宅の話を聞きましょう」

「私達は社会保険事務所よりもRYU君の為に少しでも多く慰謝料として払いたいんです」

と言うのでその金額を聞いて 私も主人も「はっ?」と思わず声が出た。

相手側が 入っていると言う保険は学校で掛けている本当に小さい物である。

我が家では毎年加入して下さいと学校から来るその保険では 本当に

何かあった時には到底そんな額では足りないから個人で入っている。

しかもその中からすでに今まで入院にかかった400万近くはその保険から出ているのだ。

それを差し引くと・・・大した金額は残っていない。

私達夫婦は決めた弁護士に行き着くまで7人の弁護士に相談に行っていた。

どの弁護士も多少の過失割合は出る物のそれでも事故の大きさ

RYUの後遺症の酷さを計算すると1億・・と言われていた。

それよりももっと大きな額を言う弁護士もいた。

しかし相手が入っているのは小さな保険だ。

私達は分割でも一生かかってでもいいから相手が半分の額を

提示してきたら示談に応じるつもりだった。

だけど彼らの言っているのは 私達が思っている金額の

その三分の一にも満たない・・・保険の残りの金額だけだった。

前回と同じ・・保険以外のお金は出すつもりがないのだ。

私は怒りを通り越して笑いが出そうになった。

「一回りも年下の私が言うのは失礼ですが、示談の話しと言うからには、それなりの

金額を調べたり 勉強されました?」と聞いた。

相手は夫婦揃ってキョトンとした顔をしている。

「私も法律に対して何の知識もありませんでしたけどA君の家裁の審判が

下りた後も事件の事、RYUの遺失利益 慰謝料の事、いろんな本を読んで

自分なりに勉強しました。

最近では本屋へ行けばそんな本はやまほどあります。

示談の話をしたいなら それなりの事は調べてくるのが普通ではないですか?」

と言うと「お宅はいったい幾らと言うんですか?」と前と同じ事を言う・・

私達が思っていた金額は 相場よりも低いものでした。

でも慰謝料というのはこちらが幾らというのではなく お宅が提示した額で

私達が応じるかどうかの事でしょう?

そんな事を私達に聞く前にご自分でお調べになって下さい。

これでは話し合いにもなりませんので失礼します」と主人共々席を立った。

それでも夫婦揃って訳がわからない・・という顔をしていた。

帰ってすぐ弁護士に電話をした。

「どうでした?納得のいく金額を提示されましたか?」と聞かれ

「前回までの話し合いと同じで、保険の残りだけでというものでした」と

告げると弁護士は呆れ返り「少しでも多く支払いたいと言ってきたんじゃなかったですか?!」

と驚いて言う。

「そうです。保険の残金から社会保険事務所にお金を払う前に

家に払うのが誠意と言われました」と言うと弁護士はしばらく言葉もでなかったようだ。

「これで私達の気持ちも決まりました。裁判の手続きをお願いします」

そして私達はA君の家裁の調書、数百枚をコピーしたもの 病院からの医療経過などを

資料として弁護士に渡し、弁護士が裁判の為の下準備をして8月裁判所へ訴状を提出したのである。


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